体育研究所 コラム

体育研究所 2025年度 スポーツの経験は一生の宝物?体育大卒業生の「その後」を追う大規模研究が、新たな扉を開く!

「体育で学んだことや、スポーツ活動に熱中した経験は、将来の人生にどう役立つのだろう?」

この問いに対して挑むのが、日本体育大学の同窓生研究プロジェクトです。日体大の卒業生を対象とした追跡研究の取り組みです。この研究から体育やスポーツの価値を解き明かし、未来の健康づくりに役立てたいと考えています。
この研究は、体育・スポーツ界のエリートとも言える体育大学の卒業生たちの人生を追跡することで、学生時代の経験が卒業後のウェルビーイングに与える影響を解き明かそうとしています。その成果は、将来の子どもたちの体育教育や、全ての人の健康寿命を延ばすためのヒントになるはずです。

すでに私たちは、予備的な調査として、400名に対してアンケート調査をおこない、そのうち100名に対して、活動量計を使って現在の活動量の調査、唾液による遺伝子検査を行っています。

始まったばかりの研究ですが、すでに体育大出身者の「競技種目」と「BMI(肥満度)」の関係など興味深いデータを学会で発表しています。例えば、マラソンのような持久系競技の選手と、柔道のようなパワー系競技の選手とでは、卒業後の体重増加に対してどのような違いが生まれるのでしょうか?この研究は、競技特性が将来の体重管理に与える影響を明らかにしようとするものです。

スポーツの才能は“諸刃の剣”? 遺伝子のトレードオフ

さらにこの研究は、私たちに非常に面白い視点を提示してくれます。それは、スポーツに有利な遺伝的特性が、一方で特定の病気のリスクにもなり得るという「トレードオフ」の関係です。例えば、爆発的な力発揮に有利な遺伝子が、見方を変えれば、将来の生活習慣病のリスクを高める要因になるかもしれない。つまり、ある場面で「才能」として輝く遺伝特性が、別の場面では「弱点」になり得るのです。これは、人間の体が持つ複雑さや奥深さを示しており、健康を多角的に捉える上で非常に重要な発見と言えるでしょう。
本プロジェクトで特に注目しているのは、卒業生たちが中年期以降にどのように運動習慣を再獲得していくのかというプロセスや、高血圧や糖尿病といった既往歴(かかったことのある病気)との関連です。そして、そこに遺伝素因がどのように影響するかに注目しています。アスリートだった人々が直面する健康課題を明らかにすることは、多くの人にとって重要な示唆を与えてくれるはずです。今後の展開を楽しみにしていただければと思っています。

菊池 直樹
日本体育大学 体育学部 教授
研究プロジェクト3「中高齢者の健康寿命延伸に関する研究」
プロジェクト長