体育研究所 2025年度 女性アスリートの身体を守るために―尿中ホルモンで月経と骨の健康を見える化する新しい試み―
女性アスリートは、日々の厳しいトレーニングを重ねる一方で、身体のバランスを崩しやすいという特徴があります。中でも知られているのが「女性アスリートの三主徴(Female Athlete Triad:FAT)」と呼ばれる健康問題で、エネルギー不足、月経の乱れ、骨の弱まりの三つが相互に関係しながら進んでいく状態を指します。この三つの要素は単独でも問題になりますが、重なるほど疲労骨折のリスクが高まることもわかっており、早い段階でその兆候に気づくことが大切です。
しかし、これらの変化は、体調のちょっとした揺らぎの中に隠れてしまい、本人でさえ気づきにくいことがあります。特に月経の乱れは「練習がきつかったから」「今は大会前だから」と見逃されがちで、問題が深刻化したタイミングでようやく受診につながるケースも少なくありません。
私たちの研究では、このような“見えにくい健康リスク”をもっと早い段階で捉えられる方法を作ることを目指しています。その中心となるのが、尿中ホルモン値を利用して、FATの要素を早期に、かつ客観的に評価できるアプリやシステムの開発です。尿から測定できるホルモンは、採血よりも手軽で、日常生活の中で負担なく継続測定できるという利点があります。その具体例を示したのが図1です。図に示すように、ホルモン変化のパターンを可視化することで、月経周期の乱れやエネルギー不足の兆候を自動的に捉え、FATにつながるリスクを早めに知らせる仕組みを構築しています。
このようなシステムが実用化されれば、アスリート自身が自分の体の変化に気づきやすくなり、必要に応じてトレーニング量や食事内容を調整することができます。また、指導者やサポートスタッフも、根拠のあるデータに基づいて選手を支援できるようになり、競技と健康を両立させるための強力なツールとなることが期待されます。
女性アスリートが健康的に競技を続けられる環境を作るために、尿中ホルモンを用いたFAT評価システムの開発は、新しい一歩になると考えています。私たちは今後も、現場で使いやすいアプリの実装と検証を進め、アスリート自身と支える指導者が一緒に健康を守れる環境づくりを目指していきます。
橋本 典生
日本体育大学 体育学部 教授
研究プロジェクト4「女性の健康とスポーツに関する研究」
プロジェクトメンバー
